スタジオの鏡壁のつくり方|割れ対策・水平出し・映り込みの注意点
ダンススタジオで一番使う設備が鏡壁。割れやすい・ゆがんで見える・眩しい…といった不満は、設計と施工の“ちょっとした差”で防げます。ここでは運営者や現場担当者向けに、専門用語をできるだけ減らして、実務の勘所をまとめました。
まず決めること
- 鏡の厚み:スタジオは5mm以上推奨(人が接触しやすい/面積が大きい)。
- 高さ:2,000〜2,400mmが目安。床から100〜200mm空けると蹴り割れを防ぎ、清掃もしやすい。
- 幅割り:1枚の幅600〜900mmで割り付けると運搬・施工・平滑度管理がしやすい。
- 仕上げ色(鏡の対向面):暗め・低彩度・ツヤ消しが基本(映り込みの整理用)。
- バレエバー:鏡前に付ける場合は金物位置と下地を先に決め、鏡の継ぎ目を避ける。
割れ対策(安全第一)
- 飛散防止:鏡裏に飛散防止フィルムを必ず施工。割れても破片が飛び散りにくい。
- 下端クリアランス:床から10〜15mm以上あけ、ゴム目地やアルミ見切りで保護。
- 面取り:縁は糸面取りでチッピング(欠け)を予防。
- 支持方法:上下に連続チャンネル(受け・押さえ)+鏡用弾性接着剤の併用で点荷重を避ける。
- 地震対策:上部チャンネルに落下防止返し(内向きフランジ)を設け、鏡上端を包む。広い面は**エキスパンション(逃げ)**を2〜3mm確保。
- 注意:酸性のシリコンは銀膜を痛めることがあるので中性タイプを使用。
下地と水平出し(仕上がりの要点)
鏡は下地の精度がそのまま映る設備です。難しい施工手順は抜きにして、次の考え方を押さえれば十分です。
- 下地は「硬く・平ら・動かない」が基本。壁のうねりや段差は鏡に写って歪みの原因になります。
- 鏡の前に巾木や出っ張りが来ないよう計画。押し上げ・干渉を避けます。
- 仕上げ前に長い定規やレーザーで一面を確認し、気になる箇所を補修。
- バーや金物の下地は連続で用意し、鏡の継ぎ目を避けて配置します。
取り付け工法
細かな施工手順は現場に任せつつ、運営側がチェックすべき要点は以下です。
- 上下で面支持し、点で支えない(割れ・歪み防止)。
- 鏡と床・壁は直接当てず、周囲にわずかな逃げを設ける(清掃と衝撃逃がし)。
- 目地は均一に。色は黒系だと映り込みが落ち着きます。
- 鏡対応の中性タイプの接着・シールを使用(銀膜劣化を避ける)。
- 固定後は養生期間を取り、硬化前の清掃・衝撃はNG。
映り込みのコントロール(“見え方”改善)
- 照明:
- 直射を避け、天井→床に向けた面照明と、壁沿いのウォッシュで均一化。
- 演出は調光でON/OFF差を作り、鏡前は眩しくしない。
- 対向面の色・素材:
- 濃いめのグレー/ベージュのマット塗装で背景ノイズを減らす。
- 艶あり床は反射が二重に見えることがあるので半ツヤ以下が無難。
- 自然光:
- 窓が正対する場合はレース+遮光ロールの二重でコントロール。
- 継ぎ目の見え方:
- 目地を黒にするとラインが締まり、ダンサーの体軸が割れて見えにくい。
- 撮影配信:
- カメラの映り込みは黒バックの可動パネルや偏光フィルタで軽減。
バー・設備との取り合い
- バー支柱の位置は鏡の継ぎ目を避ける(割れ防止)。
- 既存コンセントやスイッチは移設するか、鏡に開口を作る(エッジ保護必須)。
- 換気グリルは消音ボックスを挟み、風切り音を抑える(鏡面近接の反射対策)。
メンテナンスと長持ちのコツ
細かな施工手順は現場に任せつつ、運営側がチェックすべき要点は以下です。
- 清掃:アルコールや強い溶剤は銀膜に悪影響。中性洗剤を薄め柔らかい布で。
- 結露対策:下端・目地の水分残りが銀膜の黒ずみ原因。営業後は換気と乾拭き。
- 定期点検:目地の切れ・チャンネルの緩み・歪みを半年に1回チェック。
まとめ:安心・安全なアート活用のために
鏡壁は安全(割れない・落ちない)→正確(平らで歪まない)→見やすい(眩しくない・背景が整理)の順で考えると失敗しません。下地精度と取り合いの納まり、そして照明・色の映り込みコントロールまで一連で設計・施工すれば、ダンサーが姿勢とラインに集中できる鏡ができます。運用開始後も定期点検と清掃で、長く気持ちよく使いましょう。